XRソリューション 住友商事マシネックス

COLUMN

XRソリューション コラム

熟練作業者のリアルな目線を共有

効果的な技能継承にXRソリューション



少子高齢化社会の進展により、日本の労働人口不足は深刻な事態となっています。中でも企業における技能継承の問題も懸念されています。技能継承が途絶えると、ビジネスが止まってしまいます。これを防ぐためには、人材を確保した上に「計画的なOJT」と「教える側と教わる側の綿密なコミュニケーション」を実施することが重要です。これを実現する方法として、熟練者作業者目線の映像を記録し、伝えることができるのがXRソリューションです。


技能継承が危機を迎えている日本経済

日本では少子高齢化が進み、産業界における労働人口の減少が喫緊の課題となっています。例えば、わが国の中心産業である製造業においては、中核を熟練の技術者や作業者が担っているケースも多くあり、次世代への技能継承に多くの企業が課題や不安を抱えています。


図1 製造業における技能継承に問題がある事業所割合
出典:経済産業省「平成30年度ものづくり基盤技術の振興施策(ものづくり白書)」第3章 ものづくり人材の確保と育成

製造業では、全産業平均に比べて技能継承に問題がある事業所割合が、2007年から一貫して約1.5倍高くなっています。これは、継承したい技能が存在するにも関わらず、それがうまくいっていない状況が長く続いていることを意味します。

これは製造業のみならず、技能継承は他の産業でも普遍的な課題として起きているといえます。一例として、電力会社における種々の業務があります。発電所では、大型機器の輸送や据付、稼働後も補修や改造といったメンテナンス作業が行われますが、それぞれ固有の技術が必要で、発電所を長く運営していくためには、新人にそれらの技術を滞りなくかつ計画的に継承していかなければなりません。

また、プラント建設・保守においても同様のことがいえます。プラントには、エネルギー系、化学系、産業系、環境系などさまざまな種類がありますが、いずれも規模が大きく、複雑にして高い安全管理が求められるため、その業務には経験とスキルが求められます。新人に対してはベテランからの技能継承が不可欠です。

他方、誰でも携わる機会のある飲食店なども例外ではありません。飲食業には、固有の業務体験や接客技術があります。この世界は他の産業よりも人の流動性がさらに高いため、作業者目線での技能継承をよりスムーズに進めていく必要があります。

しかし、いずれの場合もこれまでの方法では、新人を育成するのに多くの時間と労力(コスト)がかかっていました。技能が一部の従業員に属人化している状態では、継承が途絶えるというリスクをはらんでいます。継承が途絶えるということは、すなわちビジネスが途絶えることにつながります。これを防ぐための対策は人材を確保すること、加えて、「計画的なOJT」と「教える側と教わる側の綿密なコミュニケーション」を実施することが、技能継承のキーポイントになります。

XRソリューションが熟練作業者からの技能継承を支援

「計画的なOJT」と「教える側と教わる側の綿密なコミュニケーション」は、ITによってカバーすることができます。その解決策の1つなるのが、まさにXRソリューションです。

XRはExtended Realityといい、現実世界と仮想世界を融合する技術を指しています。人が、実際には存在しない空間に仮想的に入ることができる、あるいは物理的な環境に実際には存在しないオブジェクトを表示させることができます。XRは、その形態によって、VR(仮想現実)、MR(複合現実)、AR(拡張現実)の3つにわけることができます。


VR(VirtualReality)は、VRデバイス内に仮想現実を表示し、あたかもそこにいるかのような体験をさせる技術です。また、AR(Augmented Reality)は、スマートグラスやタブレットを介して、実空間にデジタルコンテンツを表示する技術です。MR(MixedReality)は、MRヘッドマウントディスプレイを使用して、実空間に投影したデジタルコンテンツを操作することができる技術です。

XRソリューションであれば、熟練作業者の目線で作業内容を映像として記録・共有することができます。新人はその作業を映像でリアルに確認することができるため、OJTの際、「なぜここで〇〇を見るのですか」「ここで確認しているのは〇〇ですか」と、熟練作業者との間でコミュニケーションをとるのに役立ちます。実際、技能継承に有効なのは、意図の明確なOJTと豊かなコミュニケーションという調査結果もあります。


図2 技能継承の成果につながる理由
出典:経済産業省「平成30年度ものづくり基盤技術の振興施策(ものづくり白書)」第3章 ものづくり人材の確保と育成

技能継承がうまくいっている企業において、その理由として最も割合が高いのは「計画的にOJT を実施しているから」(60.9%)でした。そして、その次に「指導者と指導を受ける側とのコミュニケーションがよく図られているから」(39.9%)がランクインしました。つまり、OJTに工夫を凝らしている企業が「勝ち組」になっているというわけです。

「HoloLens」の熟練作業者目線映像が技能継承を活性化

XRソリューションとしておすすめする機器は、ヘッドマウントディスプレイ方式のMRウェアラブルコンピュータ「HoloLens」(Microsoft HoloLens)での遠隔支援です。

「HoloLens」は、マイクロソフト社によって開発されたデバイスです。現在は「HoloLens 2」が最新バージョン。いわゆる「メガネ」型デバイスの中では体へのフィット感が非常に高いのが特長です。

「HoloLens」によるXRソリューションでは、熟練作業者の作業をその目線そのままに映像として撮影することができます。そのため臨場感をもって、よりリアルに技能を伝えることができます。また、熟練作業者と新人が同じ目線でコミュニケーションがとれるため、新人が聞くべきポイントや継承すべき技能の詳細が明確化できます。これは1対1だけでなく、1対多といった研修目的での利用も可能です。

新人を採用した段階から、「HoloLens」を前提とした新人育成計画を立案・推進すれば、経営戦略という観点でも、その企業ならではの技能継承と人材育成を効率的に行うことが可能になります。XRソリューションは、技能継承を行うツールとして今後ますます進化していくでしょう。